第1章 夢のはじめ(4)
6階の部屋なので,他の部屋で湯を使うと,設定した湯温が狂うかも知れないといったことを言いながら,由利が戻ってきた。朝里から少し離れたベッドの端に場所をとって腰を掛けた。
「こっちへ来ない?」
朝里は手招きした。女は無言で立ち上がり,朝里の横に腰をおろした。彼女はSEXをすることに同意したのだし,今,がつがつする必要もない。シャワーを浴びた後で,ゆっくり楽しめばいい。そう思って,朝里は風呂に湯が貯まる間,女への疑問を解決しておくことにした。
「ちょっと,聞いていい」
「どうぞ」
朝里の方を見ずに,テレビを見ながら答えた。
「どうして17万くらいの金で,こんな事をする気になるのかな。それが不思議。それくらいなら免許証で借りられるんじゃないない?」
「世の中不思議なことはいくらでもあるのよ。いろいろ,あちこちをあたって,集められる所から集めて,ぎりぎりやって,それでも17万円足りないの」
女は数十万か数百万か分からないが,金策の果てにあと17万不足しているということだった。しかし,朝里には腑に落ちなかった。
「だったらな,そのブレスレット売り飛ばせばいいじゃないか。それダイヤだろ」
朝里はカマをかけた。
「これ?違うわよ。イミテーション。偽物なのよ。こんなの値打ちなんかないわ」
女は強く否定した。その強い否定は,ブレスレットの宝石が本物である事を示しているようだった。
「そうかな?それならオレが買おうじゃないか。20万で買うよ。そうすれば,一晩,働かなくても済むんじゃないかい」
朝里はなおも突っ込んでみた。どうだ参ったか。女の反応はどうだろう。
「20万なんかどうせ持っていないくせに。とにかくこれは売り物じゃないのよ。なんでもいいからお金を集めればいい,というものじゃないのよ。朝里さんは不思議でも,私にはこれしかない選択なのよ」
女は商売以外の詮索は結構というように,一気にまくし立てた。どういう方法でお金を集めるかは私の勝手なのよ。貴方に指図されることではないの。女の目はそう言っていた。朝里の負けだった。
「了解。分かった。で,残りの14万円はどうするの?」
「貴方が済んでから考えるわ。お風呂にお湯が貯まっているわよ。シャワー浴びないの?」
女に促された朝里は,残りは後で寝物語に聞き出すことにしようと決めた。
「よし。一緒に入ろう。服脱がしてやるよ」
そう言って,女の腕を掴んで引き寄せようとした。女は軽く手を振り払って,立ち上がると
「自分で脱ぐからいいわよ。貴方も早く脱ぎなさいよ」
と言った。朝里も立ち上がって,女とペースが同じになるように服を脱いでいった。女は別に恥ずかしがるそぶりもなく,ブラウス,スカートを脱ぎ,ブラジャーも外した。身を包んでいるのは,青いTバックのパンツ1枚になった。
朝里は,自分の想像より遥かに筋肉質の体をしていて,そのくせ十分発達した胸と豊かな腰をしている由利の裸を見て,思わず生唾を飲み込んだ。
「そのパンツ,彼氏が喜ぶだろう」
「最初はすごく喜んでくれたけど,今は感動してくれないみたい。いつも喜ぶ男(こ)もいるけど」
女は男友達なんて何人もいるわよ,と言いながら,バッグからヘアバンドを取り出し,肩まである髪を2,3回折り曲げると,頭の上で止めた。続いて同じリズムで,するりとパンツを脱ぐと,全裸になった。フラットな下腹には,少し濃いめの絨毛が逆立っていた。
朝里は早くも満足感に浸り,女の腰に腕を回しながら,バスルームに導いていった。
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